どのような病気ですか?

- てんかんは脳神経系の病気です。約100人に1人の割合で発症し、日本では約100万人の患者さんがいるといわれるごくありふれた病気です。
- 脳の電気信号の一時的な乱れによって起こる発作が、慢性的に繰り返し起こります。
- 高熱が出たときだけや脳炎の急性期、外傷後などに起こるけいれん発作は、てんかんではありません。
てんかん発作は"脳の不整脈発作"ともいえる

- てんかん発作は、「脳の不整脈発作」ともいえます。
- 心臓の「脈拍」も脳の「脳波」も電気信号であり、心電図検査や脳波検査では「波形」として表されます。
- この電気信号の乱れ、つまり異常な波形から、心臓の不整脈を、脳波からはてんかんの発作を診断することができます。
あらゆる年齢で発症します

- 発病する年齢は3歳以下が最も多く、成人になると発病者は減りますが、60歳を超えた高齢者になると脳血管障害などを原因とするてんかんの発病が増加します。
- 小児てんかんの患者さんの70%は薬で発作は抑制され、一部は成人になる前に治りますが、通常は治療を継続することが多いことから、てんかんは乳幼児期から老年期まで幅広くみられる病気です。
てんかんはなぜ起こるのでしょうか?

- てんかんが起こる原因はさまざまです。
- しかし、原因がわかっているのは5割程度で、わからないものも多いのが現状です。
- 遺伝が原因のてんかんは、ごくわずかです。

- 小児では、出生前やお産のときの原因(脳形成異常、胎内での感染症、仮死分娩による低酸素症など)や、出生後の原因(脳炎、髄膜炎、外傷など)が挙げられます。

- 成人では、脳出血、脳梗塞、事故などによる脳外傷、アルツハイマー病などによって、脳が損傷されて、てんかんを発症することがあります。
治療について

- てんかんの治療目標は、発作を抑えること・副作用をなるべく少なくすること・なるべく普通の生活ができるようにすることです。
- 小児の場合は、てんかんのある子どもの心身を健全に育むことも大切な目標です。

- 発作の抑制は薬による治療が主体です。抗てんかん薬により、脳の神経細胞の過剰な興奮を抑えます。その際、なるべく副作用が少なく、普通の生活ができるよう、医師と患者やその家族など周囲が一体となって治療に取り組むことが重要です。
- 薬による治療で、約60~70%の人は発作を抑えることができます。
- 治療によって、発作が抑えられなくても、発作の回数を減らしたり、発作を軽くすることができます。
- 小児では、治るケースも多くみられます。

- 薬による治療以外には、脳外科手術・ケトン食療法・迷走神経刺激法などがあります。
薬の副作用の影響かもしれません

- 大脳の過剰な電気的興奮を抑える働きをもっているため、ほとんどの薬で眠気やふらつきが出ることがあります。授業中に眠ってしまったり、ぼーっとしてしまったり、イライラしたりするのは、薬の副作用の影響かもしれません。
- 副作用をできるだけ少なくするよう治療が行われますが、薬の種類や量を変更するタイミングでは、特にこのような副作用が現れやすくなります。このことは、てんかんのある子どもと向き合う先生には、ぜひ知っておいていただきたいことの一つです。

- 薬を長くのんでいて起こる副作用もあります。
発作が起こりやすい条件

- てんかんの患者さんの中には、発作が起こりやすい時間帯が決まっている人がいます(例:入眠直後、寝起き直後、睡眠中など)。
- 一般的には、集中したり緊張しているときには起こりにくく、ほっとしたときやぼんやりしているときのほうが起こりやすいとされています。

- 睡眠不足・ストレス・疲労は発作を起こしやすくするので、規則正しくバランスのとれた生活を送ることが大切です。
発作を予防するには

- 人によっては、急激な体温の上昇、発熱、テレビ画面や強い日差し、木漏れ日などの光、月経、また、てんかん治療薬以外の薬の影響で、発作が誘発されることがあります。
- わかっている誘発因子は避け、規則正しい生活を送ることが、発作を予防するうえで大切です。
成長・発達への影響

- 身長や体重などの身体の成長に対して、てんかんがどのような影響を与えるかはまだよくわかっていません。
- てんかんそのものでは、多くの場合、心身の発達には影響を与えません。
- 一部の難治性てんかんでは、発病とともに知的退行が起こるので、診断と治療を早く行う必要があります。
てんかんの発作とは?

- てんかんの発作は、脳内に電気信号の乱れが生じ、神経細胞が異常に興奮することで起こります。
- その症状は、周囲には気づかれない軽く瞬間的なものから、一時的に意識がなくなり倒れるものまで非常にさまざまです。

- 脳の神経は興奮と抑制(車に例えるとアクセルとブレーキ)がバランスよく働いています。
- ところが、興奮系の神経が強く働いたり、抑制系の神経の力が弱まると、神経細胞の過剰な興奮が起こるのです。

- てんかんの発作は、起こり方によって、部分発作と全般発作の二つにわけられます。
- 部分発作は、脳の一部が興奮して起こります。部分発作はさらに単純部分発作と複雑部分発作にわけられます。
- 全般発作は、脳の大部分や全体が興奮して起こります。

- 部分発作の中には、脳の一部の興奮が、次々と脳全体に拡がって全身の発作が起こることがあります(二次性全般化発作)。ほとんどの場合、強直間代(きょうちょくかんたい)発作(全般発作のページ参照)に進展します。

- 軽い症状のために、てんかんとは気づきにくい発作があります。
その多くは、脳の一部が興奮して起こる部分発作で、次のようなものがあります。

- 単純部分発作の主な症状には、これらのような種類があります。
- 意識があるため、本人は発作中の症状を覚えています。

- 複雑部分発作の主な症状には、上記のような種類があります。
- 意識がだんだん遠のき、周囲の状況がわからなくなる意識障害があります。
本人は、発作中のことを覚えていません。
* 指示に従わない、予想外の行動をとる(例:授業中に急に立ちあがったり、鼻歌を歌うなど)
小児でもっとも多くみられる発作

- 小児で多くみられるのは、次に挙げる発作が代表的なものです。これらは全般発作に分類されます。

- 全般発作は、脳の大部分や全体が興奮することで起こります。
- 発作中は意識がありません。主に上記のような発作があります。

- 強直間代発作は、突然に意識を失い、呼吸が止まり、口を硬く食いしばり、手足をつっぱらせて全身が硬直します(強直期:数秒~数十秒)。硬直したまま激しく倒れ、けがの危険があります。舌をかんだりすることもあります。

- 次に、間代期へ移行し、手足をガクガクと一定のリズムで曲げ伸ばしするけいれんが起こります。1分以上続くこともあります。
- できれば、顔と体を横に向かせましょう。

- 発作がおさまると、呼吸が再開しますが、しばらくもうろう状態となるか眠ることが多くあります( 30分~1時間)。頭痛、吐き気、嘔吐が起こることもあります。症状は徐々に回復します。
- 発作の間に、尿をもらすこともあります。

- 欠神発作は過呼吸で誘発されやすく、突然、表情がなくなりぼんやりした目つきになる、まぶたがパチパチする(1秒間に3回程度)、動作を停止する、反応しなくなるといった症状が起こります。
- ごく短い時間(数秒~30秒程度)で戻りますが、1日に何度も起こることもあります。持続時間が短いため周囲に気づかれなかったり、注意力がない・集中できないなどと思われてしまうことがあります。
- 幼児期、学童期、思春期に多い発作です。
- ほかに、まれですが、「まぶた」だけにミオクロニー発作がみられる「眼瞼ミオクロニー」があります。ぼんやりする反応(欠伸:けっしん)を伴うこともあります。6~8歳ごろに多くみられます。光で自己誘発されるため、座席や帽子の着用など配慮が必要になることがあります。

- ミオクロニー発作は、手、足、顔や全身が突然、ピクッとする瞬間的な症状が起こります。
- 短時間のため、自覚することは少ないのですが、連続して数回起こることがあります。
- 持っている物を落としたり、投げ飛ばすことがあるということに対して、注意が必要です。

- 脱力発作は、急に全身の力が抜けてしまうため、尻もちをついたり、くずれるように倒れることのある発作です。
- 発作時間は非常に短いのですが、転倒する際にけがの危険があることに対する注意が必要です。
てんかんの発作に似た症状

- 熱性けいれんは、感染症を伴って体温が急激上昇したときに起こるけいれんで、乳幼児~就学前に多くみられます。
- 失神は、急に立ち上がったとき、排尿したとき、採血後などに、めまい・脱力感・発汗・頻脈・顔面蒼白などを伴って意識が消失し、脳の血液量が急激に減るために起こります。小児期~思春期に多くみられます。
- 心因性発作は、精神的な問題が原因で、てんかんのような発作を示すことがあります。
- チックは、顔や肩の筋肉がピクッと動き、精神的な緊張があるときに現れやすい症状で、詳しい原因は不明です。
発作、そのときどう対応する?

- 発作の症状はさまざまで、1回でおさまるものもあれば、連続して起こるもの、一時的に意識がなくなる発作もあります。しかし、持続時間は数秒~数分間で、ほとんどの場合、短い時間でもとに戻ります。
- てんかんのある子どもが突然に発作を起こし、呼吸が止まり、顔色が土気色になっていくのを見ると、最初はとてもあわててしまうかと思いますが、先生方は落ち着いて行動し、状態をよく観察してください。
- 発作が起こると意識を失い、倒れることがありますので、けがをしないように子どもの安全を確保することが大事です。
倒れる発作

- 危険な場所(階段、道路、高所など)で倒れた場合は、安全な場所に移動させ、周囲の危険物(火、水、刃物、机など)を除き、体を打撲しないようにします。頭や手足を保護します。頭の下に柔かいものを敷いて保護しましょう。ぶつかりそうで、動かせるものは動かします。近くに火気がある場合、やけどの危険があるため素早く移動させます。近くにわれもの・とがったものがあれば移動させます。
- 子どもが身に付けているメガネ・ヘアピン・筆記用具なども危険ですので、介助者も注意して外します。
- 発作がおさまるまで見守り、危険を回避します。
- 余裕があれば発作の様子を観察し、どのくらいの間、続いたかを確認し主治医へ報告すると診察に役立ちます。

- プールなど、水中で発作が起きたときは、鼻と口が水面から出るように頭部を支えます。
- 発作がおさまった後、水から引き上げます。

- 食べものがのどに詰まってしまうと思うかもしれませんが、のみ込む力の弱い人以外は、ほとんどそういう事故は起こりません。ですから、けいれん中に無理に口の中から食べものを出そうとする必要はありません。
- むしろ、テーブル側に突然倒れることで、食器をひっくり返し、やけどをするなどのけがに注意が必要です。

- 発作中にしてはいけないこともありますので、次に紹介する対応法を覚えておきましょう。
- 口の中ものを入れてはいけません! 舌をかまないようにと、スプーンや箸などの硬いもの、ハンカチ、指などを入れてはいけません。口の中を傷つけたり、窒息したり、指を噛まれてけがをするおそれがあります。
- 体をゆすったり、押さえつけたり、大声で名前を呼ぶなどの刺激を与えない! これらによって発作がおさまることはありません。
- 発作直後の意識がぼんやりしているときに、水や薬をのませてはいけません! 窒息や嘔吐を引き起こすおそれがあります。なお、てんかんの薬は発作を予防するためのものであり、発作症状の回復を早めるものではありませんので、発作直後にのませる必要はありません。

- 横にさせて呼吸しやすいように、衣服をゆるめます。
- 嘔吐することがあるので、顔と体を横向きにし、下あごをあげます。
- 発作後、眠ってしまうことが多くみられますが、そのまま寝かせます。脳を休ませるために大事です。
- まれに、発作が再び起こることがありますので、観察は続けます。

- しばらくの間、意識がもうろうとして歩き回ることがありますが、無理に止めないで見守ります。物にぶつかってけがをしないように危険物を遠ざけ、後ろから寄り添って保護してあげましょう。前から制止すると、介助者が殴られる危険があります。

- 発作がおさまった後、ふだんと同じ状態に戻れば、必ずしも保健室で休ませる必要はありません。
- もうろうとしている場合や気分が悪い場合は、保健室で休ませて経過を観察します。
- 発作後に眠った場合は、そのまま寝かせて脳を休ませてあげます。30分~1時間程度で目を覚ますことが多いです。
- ふだんと同じ状態に戻れば、授業に戻らせたり、いつも通りに帰宅させてよいでしょう。
- 発作の状態がいつもと違う場合は、保護者に連絡し、対応を相談します。
倒れない発作

- ぼんやりしたり、口をモグモグさせたりといった倒れない発作の場合でも、周囲のものに触れたりすることによって、けがをしないよう、よく観察し注意する必要があります。
- 行動を無理に制止・制限しようとすると、予期せぬ強い力で抵抗されることがあり、発作を起こしている子どもも介助者も危険です。そばに着いて見守り、危険がある場合は後ろから静かに優しく誘導します。
- また、やさしく静かに「どうした?だいじょうぶ?」とふだん通りの表情で話しかけることは、意識がある場合のてんかんのある子どもを安心させるほかに、周囲の子どもを落ち着かせるという意味で効果的です。

- 通常、発作は数分以内におさまり、ほとんどの発作は救急の医療措置を必要としません。
しかし、上記のような場合は救急車を呼びましょう。

- 医師の処置を必要とするようなけがをしたときや、発作後に吐き気や頭痛、だるさなどが数時間以上続くときは、受診が必要です。
- 頭を打ったときに病院に連れてくべきかどうか迷ったら、様子を見て、回復が遅い場合や、いったん意識が回復したのに再度もうろうとなった場合は受診させましょう。
まとめ

- 発作を起こした子どもは、恥ずかしいと感じたり、みんなに迷惑をかけたなどの気持ちを抱き傷つきやすいですので、先生方は冷静に行動し、てんかんのある子どもにやさしさといたわりの気持ちをもって接してください。
- また、ほかの子どもたちはてんかんの発作を目にすると、驚いたり、恐怖を感じたり、興味本位で見てしまうことがあります。「すぐに戻るから、だいじょうぶ」などの声掛けをして、心配はいらないことを示してあげてください。
- 病気について上手に説明し、子どもたちがてんかんやてんかんのある子どもとどう接すればよいかを正しく理解できるように指導しましょう。

- てんかん治療の3本柱は、薬物療法・外科療法・食事療法です。
- 3本柱のプラスアルファとして、一人ひとりが日常的なケアによって誘発因子・増悪因子を取り除くことが大切です。
- できることから少しずつ取り組みましょう。それには、先生方のご協力が必要です。